かつて日本には新聞や雑誌で時事議論をする知識人が溢れていた。それは、論壇と呼ばれ、大いに盛り上がっていたという。
ところが、今はどうだろうか。新聞や雑誌の購読率は下がり、情報源のTwitterではリンク先も読まず、140文字ですら多いと感じる人が大半ではないだろうか。
本書では、Twitterのように文脈がなくデタラメが拡散されても訂正されないネット社会での情報の広がりを嘆いている。
確かにTwitterでは過去の発言は省みず、それについての議論や反論も広がらず、文脈のない言葉だけが流れていく。深く物事を考えるには全く向かないツールにより、声だけは大きくなっていっている。
本書は、戦後の論壇の巨人たち24人、文藝春秋をつくった3人など、戦後を大いに盛り上げた知識人たちの評論集である。
著者紹介【坪内祐三】
雑誌「東京人」の編集者を経て、評論家、エッセイストとして活躍。父はダイヤモンド社の元社長でフィクサー、曾祖叔父は柳田國男がいる。
圧倒的な読書量と知識量により、明治大正昭和の知識人たちの見識も深く、多くの評伝を遺している。2020年1月13日に心不全により急逝。
タイトルに込められた意味
タイトルからすると冒頭に述べたようにネット社会を憂う評論のイメージを持つが、内容は戦後の論壇を彩った知識人の評伝が主である。
そのため、前提知識がないと理解しにくところも多々あるが、一人ずつ「〇〇を知る三冊」と重要な書籍が紹介されており、本書をきっかけに知識を広げていくのも良いかもしれない。
その他、文藝春秋と中央公論の重要人物を取り上げ、雑誌と名編集者が如何に論壇を盛り上げたかが書かれている。
もはや戦後ではなく、当時を知る知識人の多くは亡くなっている。
時代が変わったといえばそれまでだが、やはり議論は一定の知識量と文章文脈があって初めて成り立つものである。
長文になると読まず、深く考えることを放棄し、瞬発的なやり取りが主流のネット社会に浸ると、誰かに流された思想に簡単に偏るのではないかと危険を感じる。
いわゆるネット特有の炎上も何が原因で炎上しているのかではなく、燃えているから薪をくべるような人ばかりではないか。
思想は考える力によって固まっていき、現実を見て議論を重ねることで発展していく。
やはり、私も「右であれ左であれ、思想はネットでは伝わらない。」と思った。
・書籍情報
『右であれ左であれ、思想はネットでは伝わらない。』
坪内祐三(幻戯書房)