書評・読書記録

「慶応三年生まれ七人の旋毛曲り」を読みました。

スポーツの世界で〇〇世代と呼ばれるように、ある世代に集中して大物が輩出されることがある。文学の世界では慶應三年である。

これは、この年に生まれた、夏目漱石、宮武外骨、南方熊楠、幸田露伴、正岡子規、尾崎紅葉、斎藤緑雨の足跡を膨大な文献を元に辿っていく評論である。

面白い着眼点の本で、どうしても読みたかったのだが、既に絶版。古本屋巡りで探す時間も惜しいので、ネットの古本で注文して手に入れた。

著者紹介【坪内祐三】

下記にて紹介済

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交錯する7人の偉大な人物の足跡を辿る

本書は17回講談社エッセイ賞を受賞しているが、これはエッセイや評論というより論文レベルである。

彼ら7人が出てくる文献、日記などからどのような交流があり、どのように道を進んで行ったかが見事に調べられている。

明治の出版事情や生活を文献から手繰った本書は、一人一人の経歴ではピンとこない文学史を学ぶにしても、とてもわかりやすく有用である。

漱石と露伴は東京府立第一中学校で同窓の時期があり、熊楠と子規は共立学校で共に英語を学び漱石、子規、熊楠は同時期に大学予備門に入学(その少し前に紅葉も入学)している。

また、紅葉と露伴の文壇での弟子の比較や、漱石と熊楠の英訳した方丈記の比較、漱石と子規の親密な交流など、個々の文豪として名前だけ知っている人物たちが明治という時代を生きていた事実を身近に感じることができる。

しかし、膨大な文献と紹介したように、ほぼ毎ページのように引用がある。当然、明治の原文ママで。だから論文なのだ。

おわりに

近代文学史を学んだこともなければ、それほど興味のない私でも楽しめたので、文学部を志す学生や近代文学が好きな人にとってはオススメしたい。

ただ、惜しいことに本書は明治27年というところで未完で終わってしまう。当初は全員が亡くなるまで連載の予定だったが、想像以上に長くなったためらしい。

著者曰く、あとがきにて「飽きてしまったのである」と述べているが、その意味は「本当に面白いのは明治二十年代半ばまでである」とあり、明治半ばで子規、紅葉、緑雨は命を落とし、7人の物語では無くなってしまうことも挙げられている。

未完でありながら、先は読者の知識欲を刺激する完成した名著なのだ。

・書籍情報
『慶応三年生まれ七人の旋毛曲り』
坪内祐三(新潮文庫)絶版




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