書評・読書記録

「熱源」を読みました。

『ゴールデンカムイ』というマンガを知っているだろうか。明治末期の樺太を舞台にしたサバイバルバトル漫画である。202012月には累計発行部数1,500万部を超え、この漫画でアイヌに興味を持った人も多いだろう。

そんな樺太を舞台にした人気の歴史小説が『熱源』だ。

『熱源』は、開拓使たちに故郷を奪われたアイヌのヤヨマネクフとロシアの強烈な同化政策に巻き込まれたポーランド人のブロニスワフ・ピウスツキ、文明によってアイデンティティーを揺るがされた2人が樺太で出会い、自らが守り継ぎたいものの正体を探っていく物語である。

著者紹介

2018年『天地に燦たり』で第25回松本清張賞を受賞して作家デビュー。

2019年、樺太アイヌを描いた『熱源』で第9回本屋が選ぶ時代小説大賞を受賞。2020年には、その勢いで同作が第162回直木賞を受賞。

主に中堅作家が選ばれる直木賞を、わずかデビュー2作目で受賞した異例の作家である。

魅力的な登場人物たち

『熱源』はアイヌとポーランド人の2人の主人公がいる上に、時間や視点が頻繁に変わるため登場人物の理解は欠かせない。

そもそも登場人物は多くないが、ネタバレにならない程度に登場人物を整理していこうと思う。

ヤヨマネクフ(山辺安之助)

樺太出身のアイヌ。シシラトカと千徳太郎治とキサラスイが幼馴染。アイヌ側の視点は主にヤヨマネクフとして語られる。

ブロニスワフ・ピウスツキ

もう一人の主人公。ポーランド人。ロシア皇帝暗殺を謀った罪で樺太に流刑となり、樺太の少数民族に興味を持つ。少数民族ギリヤークのチュウルカとその子供インディンと重要な関わりを持つ。

作中では、愛称ブロニシと呼ばれたり、ロシア語読みでピルスドスキーと呼ばれる。弟は武力で革命を謀ろうとしているユゼフ。

イペカラ

樺太アイ村の頭領バフンケの養女。シシラトカの姪。ヤヨマネクフ、ブロニスワフ双方に関わり、日本とロシアに振り回される運命を辿る。

クルニコワ伍長

814日の終戦後、樺太制圧に上陸したソヴィエト兵。大学で民俗学を学び、樺太でのブロニスワフの記録を知る。

金田一京助

東京帝大の学生(のちに助教授)。アイヌ語を研究している。作中での登場は少ないが、史実としてはアイヌ語研究とは切っても切れない重要人物。

 

ちなみに、『ゴールデンカムイ』のアシリパの父ウイルクはアレクサンドル2世の暗殺を実行し樺太へ、『熱源』のブロニスワフはアレクサンドル3世の暗殺計画に連座して樺太へ送られた。

どちらもフィクションであるが、前者は完全な創作であり、後者は登場人物などベースは史実である。混乱しないように。

おわり

本書からの問いかけは、消えゆく民族の問題ではとどまらず、個人のアイデンティティにも当てはまるのではないか。

作中で大隈重信は「弱肉強食の摂理の中で、我らは戦った。あなたたちはどうする」とブロニスワフに問いかけ、ヤヨマネクフにも問いかけた。

弱肉強食の摂理は、様々なところに存在する。受験は戦争に例えられ、稼ぐものは勝ち組、稼いでないものは負け組として扱われる。

個としてそれを受け入れるべきなのか、社会全体を変えようとするべきなのか、何が正解かもわからない。それでも人は進んでいかないといけないし、社会は動いている。

読後、目を瞑って考えてみたが、やはり簡単に答えの出るものではなかった。

それでも生きていれば、誰しも何かを残していると信じたい。




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