『本の雑誌の坪内祐三』の中の対談で、萩原魚雷という人が「エッセイとして優れている」「現代の山口瞳」とまで評されていた。
著作が『古本暮らし』『活字と自活』『本と怠け者』など、ほぼ本に関するエッセイやコラムである。本書は、その4作目。
活字好きとしては気になる作家であり、手に入る作品の中で一冊読んでみた。
著者紹介【荻原魚雷】
1969年生まれで、大学在学中から雑誌の編集、書評やエッセイを執筆。1989年から高円寺に在住。大学を中退し、フリーライターになる。原稿料だけでは足りない生活費はアルバイトをしたり、我慢したり。好きな時間に寝て起きて、古本屋をまわって…そんな生活を綴る本にまつわるエッセイストである。
好きなことをして生きていく?
隠居願望!
「好きなことをして生きていく」という言葉が流行っている。
多くの人は、「好きなことをして生きていけたら苦労はしない」と思っているだろう。だからこそ、魅力的な言葉であり、その通りに生きている人に嫉妬や魅力を感じる。
著者の望むことは「隠居」であった。
私も隠居願望に似たものがある。
金銭的な高望みはしなくても何とか我慢できるし、懸命に働くことよりも、のんびりとした生活を望んでいる。
しかし、自分を振り返ってみると、その隠居願望はお金を無くしてはできない事に気が付いた。
働かずに金は手に入らないし、金がないと自由にのんびりできないのだ。この隠居願望を叶えるためには働かないといけない。
そう、私の願望は隠居願望ではなく、若いうちから何もしたくないニート願望なのである。
さて、著者の生活はどうだろう。
突き詰める能力はありますか?
著者は「著者紹介」にあるように、学生時代から古本屋通いとフリーライターを続け、それを突き詰めた事で書評家、エッセイストとなった。
本人はフリーライターを始めたものの原稿料だけでは暮らしていけず、「下り坂から転がり落ちないようにブレーキを踏みながら、日々をすごす癖がついた。おかげで、その日暮らしとその場しのぎと気晴らしとひまつぶしは得意になった」と述べている。
そして、「古本屋をまわって、一日中、本さえ読めれば、それでよかった。」と述べているように無類の読書家である。
その結果、本書を読むとわかるが、取り上げられている作品は、小説、エッセイ、ビジネス書、マンガと多岐に渡っている。
これだけ広範囲に読み漁り、記録していく姿は、まさに好きを突き詰めた結果、生み出された文章だとわかるだろう。
つまり、著者の隠居願望は、ある意味で達成されているのだ。
おわりに
私も仕事が嫌いなわけではない。そこそこ働いて、お金はたくさんもらって悠々自適に暮らしたいなんて、ただの我儘な夢だと分かっている。
「隠居願望」と「好きな事をして生きていく」
近いようで近くないし、似ているようで似ていない。
好きなことをして生きていくためには、突き詰めないといけないし、働かないといけないので隠居はできないのだ。
同じような隠居願望のある私は、著者の読書量に感服しながら、そんな事を思った。あと、稼げるようになったのなら、年金ぐらいは納めたら良いのにとも思った。
・書籍紹介
『閑な読書人』
荻原魚雷(晶文社)