定期的にミステリを読みたい熱にかかり、「1Q84」の書評も後回しに京極夏彦の「陰摩羅鬼の瑕」を読みました。
京極夏彦といえば、通称「レンガ本」と言われる分厚い本が特徴です。今回もその名に違わず1,226頁の大ボリュームです。
「陰摩羅鬼の瑕」ってこんな小説
あらすじ
白樺湖畔に聳える洋館「鳥の城」は、主の五度目の婚礼を控えていた。過去の花嫁は何者かの手によって悉く初夜に命を奪われているという。花嫁を守るように依頼された探偵・榎木津礼二郎は、小説家・関口巽と館を訪れる。ただ困惑する小説家をよそに、館の住人達の前で探偵は叫んだ。―おお、そこに人殺しがいる。
(「BOOK」データベースより)
「陰摩羅鬼の瑕」の読みどころ!
まず、何より京極作品で榎木津礼二郎が出ていた時のワクワク感は異常です。他人が過去に目撃した記憶を見ることができる榎木津が、今回はどんな発言をして、どんな行動を取るのか。
洋館の主人である由良氏は、花嫁を迎えると過去4度とも初夜を迎えた翌朝に亡くなっているという話から始まります。そして5度目の花嫁を迎え、宴が始まり、初夜を迎える。
実はここまでに882頁を費やします。
4分の3を過ぎるまで事件が起こらない理由は、京極作品の醍醐味である詳細に語られる事件の背景と博識ぶりにあります。
ここまでの間に過去に事件に携わった元刑事の伊庭が登場し、ひょんなことから京極作品の中心人物である憑き物落としの中禅寺と知り合います。
さて、ここでいつも疑問が起こるのです。
中禅寺の語る文献に基づいた博識ぶりは、事実に伴っているのか?
確かに書籍に最後には参考文献が記載されています。しかし、宗教から哲学、そして妖怪にまで話が広がりをみせる内容に、いつも私は訳もわからず説得されてしまいます。
まさに中禅寺の術中にハマっていしまっているのです。
今回、この答えが解説にありました。
解説は故・木田元という方です。
この方は、昭和3年生まれで「陰摩羅鬼の瑕」の作品内の事件が昭和28年と当時の時代背景を知っており、かつ、作品内で語られるハイデッガーについて著書もある哲学者です。
すなわち、検証するために解説を依頼されたといっても過言ではありません。
その専門家が「陰摩羅鬼の瑕」を読んでどのように感じたか。
少し小意地悪く、昭和二十八年時点では読むことのできない文献が持ち出されてはいないかと眼を光らせてみたが、それもなかった。(中略)京極さんは実によく調べるし、あやふやなことは言わない人だということがよく分かった。
専門家にここまで言わしめる京極夏彦は一体何者なのだろう。
読んでいても専門的なことはさっぱり理解できないことがあるが、何故か引き込まれてしまう魅力は、この裏付けある博識ぶりにあるのでしょう。
ミステリ好きだけでなく、膨大な知識の海に溺れたい方は是非。