書評・読書記録

『名著の話 僕とカフカとひきこもり』を読みました。

読書好きの中には、NHKの「100分de名著」を見ている人も多いのではないか。

「100分de名著」は毎月1冊の本を毎週25分に分けて、その本の専門家などに解説をしてもらう番組である。

本書はその「100分de名著」に出演している伊集院光が、もう一度話を聞きたい専門家と対談をしたものをまとめている。

未読の人であり経験豊富な人の役目

「100分de名著」において、伊集院光の役割は、その月に取り上げられる本の全くの素人であるということだ。

何故なら、読んでないからこそ聞ける質問や、読んでない視聴者と同じペースで理解できることが役目だからである。

本人曰く「炭鉱のカナリヤみたいな役目」であり、「あまりに高いレベルで知的交流をしている人が、あまりに低いレベルの考えに触れたときに起こるビッグバン的な現象」の「無知との遭遇」が楽しめる番組であるという。

とは言っても、伊集院光自身もそれなりの年齢で、引きこもりの時代を過ごし、落語家として文化にも触れて育ち、人生経験は豊富である。

だからこそ起こる化学反応が「無知との遭遇」につながっているのではないかと思う。

文学に謎解きは大事じゃない

本書では、カフカ『変身』柳田國男『遠野物語』神谷美恵子『生きがいについて』の3冊を取り上げている。

いずれも人生に深い示唆を与えてくれる内容だ。

その中で、カフカ『変身』について少し触れたい。

『変身』の解説をしている川島先生は次のように言っている。

 

川島「いまの伊集院さんの読み方のように、人生のいろいろな局面で、まったく別の読み方ができてしまうのも『変身』の面白さなんです。」

伊集院「僕もひきこもり時代に読んでいたら、妹の重要性なんてわからなかったでしょうね。」

川島「私が高校生の頃に読んだときも、家族の視点が書き込まれていることにすら気づかなかった。」

 

そもそも物語は読む人によって、誰に感情移入するか、どのような視点でも読むかが違ってくる。映画やアニメでも、ヒーローに憧れる人もいれば、ライバルに憧れる人もいる。これは何もおかしいことではない。

しかし、文学になると何故か正解を求めたがる

確かに、試験問題ならそれでも良いだろう。そもそも試験問題は正解が導きやすい箇所を抜粋している。それはそれで作成者の意図を読む勉強になる。

ただ、一般的に文学を楽しみ生きていくのに、そこに固執してしまうのは勿体無い。

川島 たしかに『変身』は一つの謎ですが、その謎はそもそも解けるようにはできていないと思います。その意味では、文学って「わかる」ものじゃないんですね。「わかる気がする」だけ。 一人の人間の視野はどうしても限られるので、一つの文学作品を、どうやったらみんなで豊かにしていけるかということを考えるのが文学研究だろうと思います。

文学は楽しむとは、こういう事なのである。

これは伏線の回収を求めたがる漫画や、極論や正論を振り翳して対立する一般的な事象にも言えるのではないか。

なんとなく息苦しさを感じる人に、自由な視点で議論をする面白さを本書では体験してみてほしい。




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