書評・読書記録

『堤義明 闇の帝国』を読みました。

セゾングループに興味を持ち、セゾンと堤清二に関する書籍を読んできたが、とうとうその弟である西武鉄道の堤義明に関する書籍も読み始めた。

堤義明は、言わずと知れた西武グループのトップで、一時はアメリカの経済史フォーブスで世界一位の長者になった人物である。

しかし、2004年に西部鉄道が総会屋に利益供与をしていたことが発覚、2005年には証券取引法違反で逮捕。本書は、この事件に至った経緯を詳細に追っている。

(株)コクドという非上場の帝国

コクドを支配すること

まず、西武グループの中核となるも非上場企業であった(株)コクドとは、どのような会社だったのだろうか。

コクドは1920年に前身となる箱根土地株式会社として堤康次郎が設立した。

その名の通り、箱根をはじめ、国立・軽井沢などの土地開発を行い多くの不動産を保有していく。

そして、土地開発・街づくりの延長で鉄道事業にも手を伸ばし、コクドの下に西武鉄道が出来上がっていく形となる。

つまり、コクドを支配することが、西武グループ全てを支配することに繋がっていくのだ。

それでは、何故それが堤義明の逮捕に繋がっていくのか。

無理が通った時代

その前に、本書には税務的にも興味深い話がある。

康次郎は土地の買収にあたり、大阪鉄道局に勤める中地という男に7億5,000万円を渡して交渉させた。大阪鉄道局の局長は、のちの首相になる佐藤栄作である。

中地は佐藤栄作のために次々と用地買収を進める。その名義は、もちろん中地の名前だ。

そんなことをしていれば、当然大阪国税局は目を付けるが「大恩の有る方より受けた金で、なんらやましい金でもなければ、盗んだ金でもない」と突っぱねてしまう。

本書によれば時期的には昭和30年代、すでに贈与税は現在と同じように成立しているはずである。

何故、これで逃げ切れたのか、佐藤栄作は関わっているのか。

戦後の税制成立が間もない時期や権力やら、今よりも無理が通った時代が窺える。

驚くほど粗雑な仕組み

そんな時代に考え出されたのが、康次郎の強引な相続対策である。

康次郎は徹底した相続対策をし、相続税の額はかなり少なかったという。

財産を全て会社名義にし、個人財産はほとんど持たなかったのだ。

しかし、コクドという多額の不動産を保有している会社なら、株価を評価すればかなりの金額となるはずである。

それを逃げるために行ったのが、借名株(名義株)だ。

コクドの株は、社員や信頼できる人物に分散させて持たせ、相続する堤家の保有比率は形式上はそれほど多くなかった。その上で、株式は全てコクドが管理し、実質的に議決は堤義明に委ねられていたのである。

しかも、分散して持たされていたはずの社員ですら、自分が保有している事実を知らなかったという話もある。時代と非上場という閉鎖体質の中で、そんなことが罷り通ってしまったのだ。

永遠に闇の帝国

当然、このような仕組みは問題がある。

にも関わらず、この借名株(名義株)の仕組みを上場した西武鉄道にも行っていたのだ。さらには、その西武鉄道の借名株(名義株)も、コクドが管理していた。

従って、西武鉄道は、実質的に上位10名(社)で東京証券取引所の上場廃止基準である80%を超えていたことを伏せて株式公開していたことになる。

当時、西武鉄道は、東証上場企業では3社しかない株式名簿管理を自社で行っている企業であった。そのため、上記のような仕組みがまかり通っていたが、2009年開始の株式電子化が導入された時点で名義株が発覚してしまう事態は元々予想されていた。

2005年に証券取引法により逮捕されたが、これが2009年まで発覚しなかったらどうなっていたのだろうか。

結果的に、名義株として堤義明の株式と認められたが、これが名義株ではなく実際の名義人の所有となった場合、堤義明(コクド)の支配力は大幅に低下する。

西武鉄道を上場廃止にして買い取る予定だったのか。

実際の名義人の所有とすることは、堤康次郎の意志を継ぐ考え方としてはあり得ない。

この事実を知っていたのは、内部の少数だというが、事件のキーとなった弁護士も含めて専門家がいながら、誰も先の事に手を打たなかったのか。

まさに本書のタイトル通り「闇の帝国」の真相は、堤義明と資本関係も切れてしまった今、永遠に闇に包まれたままとなってしまった。




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