2022年7月8日、選挙演説中に凶弾に撃たれ、非業の死を遂げてしまった安倍晋三氏。通算8年9ヶ月、6度の国政選挙を勝ったのは何故か。何が長期政権を支えたのか。本人の口から語られた回顧録である。
海外の場合、こういった大統領や指導者の回顧録は、時を経ずに出版されるらしい。
しかし、日本の場合は、比較的早く出版された中曽根康弘氏でさえ退陣後10年近く経ってからであり、本書は事情が事情だけにインタビューが完了し、出版されたのは奇跡的と言って良い本だ。
本書の構成
第1章は新型コロナウイルスが蔓延し始めた2020年1月から始まる。
当時の政府の対策や検査体制等の話、オリンピックの延期、辞任の決断を振り返る。
そして、時は戻り、第2章は2003年の自民党幹事長就任から、退陣、野党時代の2012年までを総括している。
そのあとは、2013年の第2次内閣発足から第1章の直前2019年まで順に進んでいく。
終章は、長期政権を維持するための人事や支持層、面白いことにSNSや動画の使い方についても述べていて、人間らしさ親近感を感じられる内容だ。
おすすめの理由
本書のインタビューは、当初、自民党総裁の任期を全うする2021年9月以降の予定であったという。
しかし、前年の8月28日に突然の辞意表明。健康悪化が理由のため、この企画は諦めざるを得ない状況だったらしい。
ところが、安倍氏自身から申し出があり、退陣後すぐの20年10月から1回2時間、21年10月まで18回、計36時間にわたって行われたものだ。
回顧録というのは、常に自己正当化や美化が付き纏うものである。
反安倍派にとっては、よりその目には強く映るだろう。
しかし、本人から語られた考えを何一つ読まない、信じないというのは、ただの妄想によるアンチでしかない。
退陣後、そして亡くなった後にこれだけ速やかに出版された回顧録を読み直すことは、読者の記憶が薄れていないうちに振り返れるということでもある。
確かに、一部は言葉を濁しているような表現もある。
当然、機密上の言えないような内容や多少の自己正当化もあるだろう。
ただ、それでもこの10年近い政治を振り返る良い機会であるし、それこそ本人の弁や経緯を聞かずに批判するのは陰謀論者と言われても仕方がないことである。
私たちの記憶が新しいうちに、読んでみて欲しい。