世界史と聞くと、近代に向かって国や登場人物が多くなり、理解するのが追い付かなくなる印象がある。
その中でも、第一次世界大戦は日本人に縁遠く、よくわかっていない人も多いのではないだろうか。
第一次世界大戦は1914年から1918年に行われ、サラエボ事件がきっかけとされている。ここまでは誰しもが学校で習うだろう。学生時代が遠い過去となっている私でも、流石にこれぐらいは覚えている。
そして、ドイツが負けて巨額の賠償金を背負い、なんだかんだあってポーランド侵攻により第二次世界大戦に突入していく。
この辺の理解を助ける一冊が、本書『日本人のための第一次世界大戦史』である。
【著者紹介】板谷敏彦とは
Amazonのプロフィールより
兵庫県西宮市生まれ、関西と首都圏半々で育つ、造船会社から証券会社へ、ウォール・ストリートに6年、その後も東京を中心に世界中、日本中を飛び回った。船舶全般/国内外株式/デリバティブス/ストラクチャー/投資ストラテジー/投資理論/金融史/軍事史に強み
2006年にはヘッジファンドを設立している金融のスペシャリストであり、また、世界史に関する著作も多い。
第一次世界大戦はどのように始まったか
戦争技術が一変した1800年代
本書は、その約100年前、1805年のトラファルガーの海戦から触れている。
何故か。
トラファルガーの海戦は、帆船同士の艦隊決戦として最後の戦いだからである。そして、その2年後の1807年、アメリカのロバート・フルトンがイギリスから輸入した蒸気機関を小型船に搭載して、蒸気船を商用化させている。
ここから第一次世界大戦までの100年で急激に技術が発達していく。
船の動力は、外輪による蒸気船からスクリュー・プロペラ、蒸気タービン、さらには石油を使うディーゼル・エンジンまで実用化される。また、電動モーターによる潜水艦が登場したのもこの期間である。
他にも鉄道網の発達(1825年)、印刷技術による新聞の大衆化、電信(1844年)から無線通信、1903年にはライト兄弟の初飛行、自動車の大量生産化もこの時期であった。
つまり、第一次世界大戦とは、急激に発達した戦争の技術史を理解し、グローバリゼーションによりもたらされた戦争とも言えるのである。
本書では、約500ページのうち約200ページまで第一次世界大戦が始まるまでの技術史を丁寧に追っている。
どこの国を中心に見るか
第一次世界大戦を理解しにくい最大の原因は、今とは全く違う国境と情勢だろう。
Wikipediaから引っ張ってきた下の画像がわかりやすい。
この時のヨーロッパは、中央のドイツ帝国とオーストリア=ハンガリー帝国を中心に、東にロシア帝国、西にフランスがある。
簡略化すれば、サラエボ事件によりオーストリアが戦争になり、独墺同盟によりドイツ参戦。ドイツを軸に第一次世界大戦へと広がる。これで良いのかもしれない。
ただ、なんでドイツがそこまで拡大したのか。
オーストリアがきっかけなのに。
この辺が私が混乱して理解が追い付かない理由でもあった。
本書は、ドイツと技術革新を中心に進めていくため、そこも比較的理解がしやすい。これも簡単に言ってしまえば、多民族国家のオーストリアは戦争技術と経済力が劣っていたわけなのだが。
まとめ
とにかく、重要な箇所では、鉄道網や戦線、国境が記載された地図が載っているため、大変ありがたい。
また、日露戦争を第0次世界大戦として捉えることで、日本の第一次世界大戦との関わりも見えてくる。
ここからさらに理解を深めるには、それぞれ各国を中心とした別の書籍が必要となってくるのだろう。この時期の戦争は因縁や利害が絡み合って、一筋縄では行かない。複雑に絡み合っているのだ。
第一次世界大戦の戦後処理までいくと、まさしく多くの国が利害に絡み、ここの部分については簡単には読み進められなかったが、全体を通しては読みやすく、確かに入門書として最適だと思った。