2021年8月28日『鳩の撃退法』という映画が公開された。原作は佐藤正午の小説である。
そして、映画の公開を知らずにして、今年、私は佐藤正午の小説を2冊読んだ。『永遠の1/2』と『ジャンプ』である。1983年に『永遠の1/2』が刊行されてから、今なお人気のある佐藤正午の小説を取り上げる。
【著者紹介】佐藤正午とは
1955年生まれの小説家で、1983年『永遠の1/2』がすばる文学賞を受賞し、デビュー。ペンネームの「正午」は、佐世保市内の消防署が正午に鳴らすサイレンの音を聞いてから、小説書きにとりかかるという習慣により名付けたという。
2015年には『鳩の撃退法』で山田風太郎賞、2017年には『月の満ち欠け』で直木賞を受賞。
映画化も定期的にされており、『永遠の1/2』『リボルバー』『ジャンプ』『彼女について知ることのすべて』、そして『鳩の撃退法』で5作品目である。
小説だけじゃない佐藤正午の面白さ
きっかけは競輪コラム!?
これだけ息の長い活躍をしている佐藤正午を知ったのは、実は小説ではなく『side B』というコラムからだった。しかも、競輪の。
私は、坪内祐三『本の雑誌の坪内祐三』(本の雑誌社)を、読む本を探す参考書として利用している。その中の「昭和の雑文家番付をつくる!」という対談で以下のやりとりがあった。
坪内祐三「雑文の上手い作家は、いなくなっちゃいましたね。特にエンターテインメント系は。その中で佐藤正午はいいよね。あの人の雑文は上手い。」
目黒考二「佐藤正午はギャンブルエッセイがいいよ。小学館から出た『side B』とか」
競馬や麻雀などのギャンブルはしてきたが競輪は未経験。未経験のギャンブルで雑文が上手いとなれば読んでみようと思い、まず『side B』を読んでみたのだ。
これはこれでギャンブル好きとしては面白かった。
しかし、流石に小説家の小説を読まずに素通りするわけにはいかない。そこで、デビュー作の『永遠の1/2』と人気作の『ジャンプ』を読んでみることにした。
ジャンル不明の傑作小説
佐藤正午の小説は、まだ2冊しか読んでいないが、どちらも引き込まれるには理由がある。
『永遠の1/2』では、失業した途端ツキが回ってきた主人公は、不思議な流れで自分と瓜二つの男がこの街にいることを知る。『ジャンプ』では、ガールフレンドが酩酊した主人公を自分のアパートに残したまま、明日の朝食のリンゴを買ってくると言ったまま失踪する。
どちらも、ミステリーの匂いが濃厚に漂った始まりである。
実際に、ストーリーとしても、その謎を辿り進んでいくのだが…
また、この2冊に登場するのは、女性と不甲斐ない主人公の僕。
『永遠の1/2』では、失業後の幸運で手にした競輪の金で生活し、競輪場で声をかけた女と共にする。『ジャンプ』では、失踪したガールフレンドを気にしつつも、誰にも連絡せずにそのままにし、出張へ行く判断をしてしまう。
ああ、モヤモヤする。
だが、このモヤモヤにより、話が面白く進んでいくのが佐藤正午の小説なのだ。
ミステリーっぽい匂いを残し、女性がキーとなり、純文学のような着地に向かうパターンといえば、村上春樹の雰囲気を感じる。
そして、私はこのパターンの小説が好きなのかもしれない。
現実でも、自分に関わる女性に人生の意味や謎めいたものを見出してみるものの、結局、小説と同様に答えは出ずに終わるのも重なるのだ。