渡辺恒雄と聞くと、どういうイメージを抱くだろうか。
野球好きにとっては「ナベツネ」の呼び名で読売巨人軍のオーナーとして君臨し、「たかが選手が」発言で顰蹙を買ったイメージか。また、政治や社会的には、97歳でなお読売新聞の社長として、主筆として政治やメディアを裏で操っているイメージか。
どちらにせよ、恐ろしい独裁者としてのイメージが強いだろう。
なぜ、「ナベツネ」はここまでのし上がって来れたのか。政治家との繋がりはいつからあったのか。どのような思想を抱いているのか。
本書は、NHKスペシャルで放送されたロングインタビューの内容を書籍したものである。
本書の構成
本書は、渡辺恒雄の生い立ち、学生時代の懐古から始まる。
そもそも渡辺恒雄は、中学は開成、高校は東京高等学校、大学は東大という超高学歴の優秀な学生であったことは知っておかなければならない。
そして、戦時中から反戦であり、大学では共産党に入党していたのも有名な話だ。その後、読売新聞社を2位の成績で合格して入社し、記者人生が進んでいく。
おすすめの理由
現在、戦前生まれの日本人の割合は14%まで低下しているという。さらに終戦時に18歳以上であった日本人は0.5%しかいない。
30代の私の祖父も大正生まれで戦争を経験してきた人物であったが、戦争は思い出したくもないのか過去は何も話したがらなかった。
ロシアをはじめ、世界では未だに戦争が起きているが、日本で戦争を直接体験した政治家はもう残ってはいない。唯一、記憶があったと思われる政治家も1939年生まれの二階俊博氏氏かいない。
だからこそ、令和の時代まで第一線で政治を見つめ続けた渡辺恒雄のインタビューには価値があるのだ。
もちろん、過去の話で現在には通用しない、道理が通らないような話もたくさん出てくる。
しかし、読めばわかるが、戦争を体験したからこその政治への熱量や行動力は学ぶべきものがある。
個人的には「独裁者」ではなく「人たらし」としての一面が知れて面白かった。人と人との信頼関係があっての政治であり、出世であるのだなと。
政治の中枢に食い込み、何を感じ、何をしてきたか、戦後政治の復習以外にも色々な面で勉強になる一冊である。