『賭博常習者』というタイトルは、ギャンブル好きなら思わず手に取ってしまうだろう。本書は、自伝的小説とあるように、競馬関係者の家に生まれた著者の半生を描いている。
それでは、競馬を知らないとつまらないかというと、そんなことはない。
「ギャンブルの神様に魅入られた“ろくでなし“の自伝的長編小説」と帯がついている。この宣伝文句は、まさに秀逸である。
ギャンブルうんぬんもあるのだが、この主人公は本当にろくでなしなのである。
自伝的小説!?園部晃三とは
自伝的小説とあり、著者のプロフィールには、「1957年、群馬生まれ。90年「ロデオ・カウボーイ」で第五十四回小説現代新人賞を受賞。」とある。
ところが、検索しても全く出てこない。
小説の中にも「エッセイやコラムや短編小説といった連載八本とは別の原稿いらの執筆や取材」とあり、それなりに仕事があったことが窺える。
また、本書の帯には北方謙三が「30年前の新人が、新人のまま現れた。馬とデラシネの日々と、ギャンブルの陥穽と黄昏の中に立つ影に、活路はあるのか。この小説の放逸な人生の底にあるのは、書くという行為の業である。」とコメントを寄せている。
そうなのである。
第五十四回小説現代新人賞の選考委員には、北方謙三がいるのである。
そして、作中にもキタカタという男が登場するのだ。
園部晃三という人物が存在することは間違いなく、知っている人は知っている存在だが、一般的な情報が出てこない謎の人物なのである。
主人公に翻弄される魅力的な人物たち
冒頭に競馬を知らなくても面白いと書いた。
その理由が、「主人公に翻弄される魅力的な人物たち」なのだ。
競馬場で知り合ったヤクザ、学校をサボるもアメリカのホームステイを紹介してくれる先生、バーのヒロミママ、ロケバスの運転手ナカタなどなど、ろくでなしの主人公に、とにかく周りの人物たちが世話を焼いてくれる。
競馬好きのろくでなしが面白いのではなく、そのろくでなしに関わってくれる人物が魅力的なお陰で小説の面白さが際立っているのだ。
実際、破天荒な堕落した人生なのに、どこか飄々とした雰囲気を感じ、まるで他人事のようにスラスラと読み進めてしまう。
そして、なんだかんだ乗り切ってしまう主人公には、むしろイラッとくる事すらある。
きっと、私が同じように生きられないし、生きても巻き込まれる側の人間なのだろうなという一種の諦めがあるからかもしれない。
とにかく、不思議で危うい魅力を感じてしまう主人公の人生には、引き込まれてしまうこと間違いなしだ。