書評・読書記録

【ネタバレ】「水滸伝」を読みました【北方謙三】

北方水滸伝全19巻を読み終わった。

実は北方謙三氏の作品を読むのは『水滸伝』が初めてなのだが、凄まじい衝撃を受けた。

19巻からなる大作を、これだけ次から次へと早く読みたいと思うことはそうはないだろう。

既に各所で魅力は取り上げられているが、改めて北方謙三初心者であり、水滸伝初心者である私でも楽しめた魅力を伝えてみたいと思う。

著者紹介【北方謙三とは】

1947年生まれでハードボイルド作家として1981年の『弔鐘はるかなり』から『逃がれの街』『眠りなき夜』『さらば、荒野』『檻』とヒット作を次々と生み出し、直木賞の選考委員も務める重鎮である。

『水滸伝』は1999年に『小説すばる』で連載開始。全199500枚の超大作は、北上次郎によって「日本の大衆小説の最高峰」と評された。同作は2006年、第9回司馬遼太郎賞を受賞。

若者向けの情報誌『ホットドッグ・プレス』にてハードボイルド人生相談「試みの地平線」を1986年から2002年まで長期にわたって連載し、「ソープに行け」などの名文句が男性読者の人気を集めた。

水滸伝とは

明代の中国で書かれた伝奇時代小説の大作で「西遊記」「三国志演義」「金瓶梅」とともに「四大奇書」に数えられている。

時代は北宋末期が舞台で、汚職や不正のはこびる世の中を正すため108人の英雄が集まり蜂起し、梁山泊と呼ばれる自然の要塞に集結。北宋を打倒を目指す物語である。

反権力が題材なため、しばしば禁書となるものの広く愛読され、現在でも高い評価を得ている不朽の名作である。

原作水滸伝の問題点

ところが原作水滸伝では、次のような問題点も発生している。

・羅貫中という人物がまとめたと言われているが実態が不明で、時代をかけて様々な人が尾ひれを付け、できあがったものとされているため、登場人物の性格に一貫性がない。

・講談や演劇が長編化されたものであるため、エピソードの時制が一本化されず、わかりにくい。

108人の英雄が梁山泊に集結する理由が偶発的であり、反権力へのバックボーンが弱い。

これらの問題点の全てを解決するため、北方謙三は原作水滸伝を紐解き再構築し、さらに肉付けをしていく形で新たに北方水滸伝を完成させた。

これでいいのか!?北方水滸伝!

注:ここから先は「水滸伝」と「北方水滸伝」の違いを知りたくない人は読まないでください。

 

 

・英雄がとにかく死ぬ。ハイペースで死ぬ。

原作では死なない場面でも死んでしまうため、原作派の人は衝撃を受けるらしい。一方で、原作を知らない私は「いかに生きるか、いかに死ぬか」を体現した個性的なキャラクター達の散り様に、たびたび涙腺が崩壊。

水滸伝の魅力は108人いる英雄の誰かに自己投影することができると言われており、自己投影した英雄がどのような生き様を見せるのか、その姿に自分が何かを成し遂げたかのような不思議な充足感に包まれた。

・北宋打倒という革命を起こすため現実的な物語に作り替えられている。

原作では妖術使いとされている公孫勝は隠密部隊、英雄たちが活躍するための資金源は闇塩のルート、北宋側にも当然作戦中枢が必要だということで青蓮寺というオリジナル機関が設定されている。

時制を統一し、リアリティを追求すれば何の不思議はなく、むしろこれらの攻防がより物語に厚みを持たせている。

北方水滸伝は男子必携の書!

当初、全19巻を見て「なかなか読むのが大変そうだな」というイメージしかなかった。

「水滸伝」は名前は聞くが内容は知らないし、北方謙三も読んだことはなかった。

有名×有名という軽い気持ちで手に取ったのだが、それが衝撃的な物語であった。

まず、時代小説というと「イメージが湧きにくい」「違和感がある」ということがあるが、それが一切ない。全てが導かれるように繋がっていき、息つかせぬ展開に引き込まれていく。

そして、登場人物たちは一癖も二癖もあるのだが、何故かどこかに共感してしまう。これが北方謙三の描く人物の魅力というのだろうか。こうありたい、憧れる男の格好いい散り際を登場人物が体現していくのだ。

まさに自分を奮い立たせてくれる、男子必携の書である。

・書籍紹介
『水滸伝』1〜19巻
北方謙三(集英社文庫)




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