昭和を代表とする、いや、日本を代表とする批評家・文芸評論家の小林秀雄。
2013年にはセンター試験にも出題され、受験生を悩ませたそうですね。
本作品は、本来は書き起こされる事のなかったものでしたが、著作権承継者の白洲明子氏の容認より刊行された貴重なものとなっています。
小林秀雄とは?
略歴等はWikiなどに任せますが、こんな逸話があるので紹介したいと思います。
学生時代は講義は休みがちな不良学生だったが乱読家で、在学中二十四歳の時に東大仏文研究室の「仏蘭西文学研究」に発表した「人生斫断家アルチュル・ランボオ」(現行タイトル「ランボオⅠ」)を読んだ指導教官が「これほど優秀なら」と卒業を認可した。
何とも天才な雰囲気を漂わせますね。
仏文学から日本文学、哲学まで幅広い見識を持っており、日本で文芸評論を確立した人と言われています。
単なる講演録ではない、貴重な一冊
本書の特徴
小林秀雄は、講演や対談を文字にして書き起こすときは、自ら速記原稿に目を通し、きちんと加筆修正し確認をしていました。
そのため、本書は存命時ならば世の中に出なかったかもしれない貴重な一冊となっています。
内容は、昭和36年から昭和53年までの間に5回にわたって、全国60余りの大学から集まった300~400人の学生や青年に行った講演と質疑応答が記録されています。
「現代思想について」
「常識について」
「文学の雑感」
「信ずることと考えること」
「感想-本居宣長をめぐって-」
講演の内容は以上の5本です。
質問することの難しさ
小林秀雄は質問するということについて、以下のように語っています。
「僕ら人間の分際で、この難しい人生に向かって、答えを出すこと、解決を与えることはおそらくできない。ただ、正しく訊くことはできる。
だから、諸君、正しく訊こうと、そう考えておくれよ。ただ、質問すれば答えてくれるだろうなどと思ってはいけない。
中略
質問するというのは、自分で考えることだ。」
自分で考えることというのは、自問自答をしなければいけません。
しかし、自問自答をしていては、でたらめな空想に陥ることもあります。
自問自答とは、自分の世界に引きこもることではありません。
まず、疑う心が必要です。
何かを疑うと、自分で考えるだけでは行き詰るので、誰かに問う必要が出てきます。
ここで、対話を行います。
対話とはお互いの知恵を出し合うことです。
協力して知恵を出し合った結果、そこから自問自答してみるのです。
つまり、何かに悩んだときに質問をするのは良いが、上手くお互いの知恵を出し合えるような質問を心がけなさいということではないでしょうか。
「知ること」「信ずること」「考えること」
そして、「知ること」「信ずること」「考えること」について独自の見解を述べています。
「知ること」は、万人が知っている共通の知識。
「信ずること」は、自分だけが持っていて良いが、間違って時にも自分で責任を取るもの。
「考えること」は、自分が身を以って相手と交わること。
そのように述べ、それぞれの重要性を説いています。
ここでは、簡単に書いてしまいましたが、詳しくは本書を是非読んでみて下さい。
こんな人にオススメ
- 本は好きだけど小林秀雄は知らなかった!
(批評家・文芸評論家というと難しそうですが、講演の書き起こしのため話し言葉で書いてあり、読みやすく引き込まれます)
- 講演がCD化されているけど、じっくりと考えてみたい
(僕は付箋を貼り、メモをしながら読みました。同じ箇所を何度も聞き返すよりじっくりと整理できます)