これまで何作か村上春樹の小説を紹介してきた。
村上春樹の小説が人気なのは言わずもがなであるが、村上春樹は実はエッセイや雑文も面白いのは知っているだろうか。
今回紹介するのは、その名の通り「雑文集」で、受賞スピーチや音楽雑誌、インタビューや海外誌に寄稿したものなど村上春樹自身が選んだ69編が収録されている。
作者の限りなく生の声を知ることができる、小説とは違った味わいのある一冊だ。
どこから読んでも良いのが雑文
本書は、「序文・解説など」「あいさつ・メッセージなど」「音楽について」「『アンダーグラウンド』をめぐって」「翻訳すること、翻訳されること」「人物について」「目にしたこと、心に思ったこと」「質問とその回答」「短いフィクションー『夜のくもざる』アウトテイク」「小説を書くということ」の10章に分かれている。
雑文集なので、どれから読んでも良いし、興味のないところは読み飛ばしても良い。私も最初は「音楽について」は後回しにした。
なんせ、村上春樹の音楽の話といえばジャズ。どうもジャズの話はわからないし、ページが進まない。とりあえず、後回しにして他の章を読んでいった。
ただ、それでも他が面白いと、やはり読み飛ばした章も気になる。
雑文集というだけあって、様々な面白さがある。
面白いとっても牡蠣フライで自己表現のような笑える面白さから、本人による小説の解説をしてくれるファンとしての面白さ、また地下鉄サリン事件のインタビューなどをした社会・政治的見解の興味深い面白さまで幅広い。
後回しにした「音楽について」のなかの「日本人にジャズは理解できているんだろうか」は、タイトルだけ見ると一見ジャズ論なのかと思う。
しかし、読んでみると全く違うのだ。
1960年代のジャズと公民権運動の関係から、90年代(掲載された当時)のジャズと人種的状況の新たな変化を捉えている。読者としては、そこからさらに進んでしまった現在の人種問題についてまで考えさせられる。
単なる音楽の話にとどまらず、社会的・政治的な問題にも触れているのは、いかにも村上春樹らしいし、海外から冷静な分析も村上春樹だからこそだろう。
おわりに
つまみ食い感覚で読んでいるので、読み飛ばしている話があるかもしれないが、どこを取ってもなかなか面白いのが本書の特徴だ。
そして、雑文でありながら、言い回しやリズムが村上春樹なのは、小説が好きな人にとっても心地よいはず。
小説を読むに疲れた人は、箸休めに雑文集なんていかがでしょうか。