「誰にも書ける一冊の本」
書店で見かけてタイトル買いです。
以前、この作家さんの別の本を読んだことがあり読みやすかったので、そこまで不安もなく買ってみました。
「誰にも書ける一冊の本」とは、どういう意味なのでしょうか。
「誰にも書ける一冊の本」ってこんな小説
荻原浩とは
広告制作会社、コピーライターを経て、1997年『オロロ畑でつかまえて』で第10回小説すばる新人賞を受賞しデビューした経歴を持っています。
その後、若年性アルツハイマーをテーマに2004年に発表された『明日の記憶』が、翌年の第2回本屋大賞の第2位にランクインしています。
この作品は、俳優渡辺謙が主演で2006年に映画化され有名になったため知っている人も多いのではないでしょうか。
実は、渡辺謙が撮影中ハリウッドの本屋で知りその内容に深く感動し、自ら原作者の荻原に「映画化させてほしい」と手紙で懇願した経緯があります。
しかし、そこまではデビュー後しばらく鳴かず飛ばずの時期もあり、また何度も直木三十五賞候補に上がるもなかなか受賞まで達していない苦労人です。
あらすじ
本作は、光文社が企画した「死様」をテーマにした競作シリーズの中の一作です。
決して小説の書き方を記したノウハウ本ではありません。
疎遠だった父親の死に際して故郷に帰った「私」に手渡されたのは、父が残した原稿用紙の束。
自身も小説家としてデビューしたがその後売れなかった「私」は、気が進まないものの読み進めていく。これは父の実体験なのか、それとも創作なのか、いくつかの謎から浮かび上がっていく疑問。
いままで、語り合わなかった父と子の距離は次第に埋まっていきます。
父が死ぬ前に書く事で人生を振り返り、息子に伝えた事とは。
小説家が書く小説家を投影した小説
主人公の「私」は広告制作会社出身、小説家としてデビューするもその後は続かず。
あれ?何か、作家自身と被っていませんか。
面白いのは「私」が父の原稿を読み進めながら批評していくことです。
小説家が小説家を主人公に素人(父)が書いた原稿を読むという、なかなか興味深い設定になっています。
「せっかく物語りに引き込まれはじめたのに、先を急ごう、はないだろう」
「洗練された文章と感性だけでは、人は活字の世界に引き込まれない」
もし、小説家を志している人がいるならば、自分もそのような事態に陥っていないか心当たりがあるかもしれませんね。
ただし、技術指南書ではないのでご注意を。
テーマである「死様」をどのように表現したのでしょうか。
静かな気持ちでゆっくりと原稿用紙を通した父と息子の対話を読むことをオススメします。