ヘミングウェイ『老人と海』といえば、本好きでなくとも一度は聞いたことがある作家とタイトル名。
イメージ的に、同じアメリカ文学の『白鯨』とうっかり勘違いする人もいたりして、実際に読んだことが無い人も多いのでは無いだろうか。
実は私もタイトルや内容は知っていても読んだことはなかった。
わずか130ページ程度の小説で、あらすじも簡単な作品が何故ノーベル文学賞を受賞したのか。
その辺も含めて、紹介していきたいと思う。
ヘミングウェイとは
ヘミングウェイは1899年生まれのアメリカ合衆国出身の小説家であり、1954年には『老人と海』でノーベル文学賞を受賞した事でも有名である。
豪快さや屈強な身体でマッチョなイメージの「パパ・ヘミングウェイ」と呼ばれる一方、幼少期は母親の性癖により女装をさせられたり、複雑な生い立ちを持っている。
晩年は二度の航空機事故の後遺症で躁鬱状態に苦しみ、1961年に散弾銃による自殺を遂げた。
今回は生い立ちやヘミングウェイの生活は触れず、『老人と海』がノーベル賞を受賞した理由に焦点を当ててみた。
『老人と海』あらすじ
舞台はキューバの港、そこに暮らす老漁師サンチアゴは不運にも84日間、1匹も魚が獲れない日々を過ごしていた。それでも老漁師を「最高の漁師」として尊敬し、慕う少年漁師マノーリンに見送られて今日も一人で小舟で漁へと出る。
ついに老漁師に釣綱に巨大カジキが掛かった。2日にかけて渡る巨大カジキとの死闘を繰り広げた老人に、海はさらなる試練を課す。
一般的には、自然の脅威と闘い、自然に翻弄されながらも、屈することのない高貴な精神を描いた名作とされている。
しかし、それだけでノーベル文学賞を受賞する理由になるのだろうか。
実は、そこには時代背景という重大な秘密が隠されている。
そこで、ノーベル文学賞の受賞理由とともに、その秘密を探っていこうと思う。
何故、ノーベル賞を受賞したか
まず、ヘミングウェイ『老人と海』がノーベル賞を受賞した理由をネットで検索してみた。
ノーベル賞の理由
『老人と海』に代表される、叙述の芸術への熟達と、現代のストーリーテリングの形式に及ぼした影響に対して
https://ja.wikipedia.org/wiki/ノーベル文学賞受賞者の一覧#1950年代
ストーリーテリングとは、そのままの意味として「物語を語ること」となる。
いまいちピンと来ない受賞理由だが、簡単に言うと「ヘミングウェイは、現代の小説手法の形式に大きな影響を与えた」ということだ。
そこで、100分de名著「ヘミングウェイスペシャル」からキーとなる部分を引用してみたい。
「アメリカ文学には大きく二つの流れがあります。一つは、ヨーロッパ文学、特にイギリス文学の影響を受けた、華麗で複雑で高度な文章を駆使するという、我々が普通に考えるいわゆる「文学」の流れ。もう一つが、一般民衆の言葉を取り入れた文学です。」
ヘミングウェイは後者の流れを作り出した代表的な作家なのだ。
そして、ヘミングウェイの小説について、次のように述べている。
「ヘミングウェイ文学の特徴としてまずは、①文章が簡潔で語彙が少ない、②視覚の重視、③対話が少ない、などが挙げられます。」
「ここ二百年くらいに書かれたアメリカの短編小説を時代順に読んでいくと、ヘミングウェイを境に、劇的に文章が平易になります。」
つまり、アメリカ文学の転換点となる作風を確立し、アメリカ文学の読者層を広げた功績が、先ほどのノーベル賞の理由に繋がってくるのではないだろうか。
まとめ
時代の転換点、アメリカ文学の転換点となったヘミングウェイ。
このような作家を、以前紹介したことがある。
森鴎外の『舞姫』である。
森鴎外の『舞姫』のテーマは近代自我の確立と挫折のドラマにあるとするとされている。
これも時代背景を知らないと楽しめない古典作品と言って良いだろう。
古典は、しばしば何が面白いのか全くわかない事がある。
しかし、その作品が古典として残ったことには、それなりの理由があるのだ。
上記の理由から、ヘミングウェイの『老人と海』は日本語で読むとなおさら面白さが理解できないかもしれない。
ただ、その平易で簡潔な文章は、英語の原書を読む導入として日本人のメリットがあったりもして、読書とは作品を知れば知るほど面白いなと思う。