前回取り上げた審査請求事例からの続きとなります。
今回は、その意義や根拠について具体的に掘り下げてみました。
信書を宅配で送ると告発されるってどういうこと?
そもそも信書って何?
ようやく本題です。
「信書」とは、「特定の受取人に対し、差出人の意思を表示し、又は事実を通知する文書」と郵便法及び信書便法に規定されています。
請求書の類
・納品書、領収書、見積書、願書、申込書、申請書、申告書など
会議招集通知の類
・結婚式等の招待状、業務を報告する文書など
許可書の類
・免許証、認定書、表彰状など
証明書の類
・印鑑証明書、納税証明書、戸籍謄本など
ダイレクトメール
参考:信書のガイドライン
上記の定義には手紙やダイレクトメールまで含まれているのです。
それでは、なぜ、これらを宅配で送ると罰せれるのでしょうか?
郵便事業という特殊な事業
郵便物の定義
郵便物は、手紙やはがきを第一種・第二種郵便物とし、雑誌など定期刊行物を第三種・第四種郵便物としています。
そして、先ほどの信書の定義を見ると「手紙やはがき」は信書に該当します。
手紙は特定の受取人に対し、差出人の意思を表示する文書ですからね。
ということは、郵便物≒信書と考えてもさほど問題ないほどです。
郵便事業
さて、実は郵便事業は郵便局のある日本郵政の独占事業ではありません。
郵政民営化により、信書便法が施行され、民間事業者も信書送達業務に参入することが可能となりました。
その信書便事業は「一般信書便事業」と「特定信書便事業」の二種類に分けられ、総務省の許可が必要となっています。
「一般信書便事業」(手紙やはがきに該当するもの)の参入許可は
・全国へ一定数の信書便差出箱(郵便ポストに相当)の設置
・3日以内の配達
と大変ハードルの高いものとなっているのです。
全国にポスト相当の設置は、場所などの確保も含めなかなか難しいですね。
それに引き換え、「特定信書便事業」というものは以下に該当するもので、基準も厳しくないようです。
多様なサービスを提供する「特定サービス型」の信書送達事業で、信書便法第2条第7項の各号に掲げる役務のいずれかを充たす必要がある。
第1号 長さ、幅及び厚さの合計が90cmを超え、又は重量が4kgを超える信書便物を送達する役務
第2号 信書便物が差し出された時から3時間以内に当該信書便物を送達する役務
第3号 料金の額が1,000円を超える信書便の役務
これは、従来のバイク便や電報等に相当するサービスであり、参入している事業者も多いです。
したがって、多くの事業者は宅配と特定信書便事業を行っているものの、手紙やはがきを扱う一般信書便事業は行ってはいないのです。
根拠
それでは、なぜ信書を宅配で送ってはいけないのでしょうか。
ここが肝心なところですね。
総務省は次の様に述べ、郵便法第4条に以下のように規定しています。
郵便のユニバーサルサービスの確保に支障を及ぼさないという観点から、手紙やはがきなどの「信書」は、総務大臣の許可を受けた信書便事業者に限って、その送達が認められております。
郵便法第4条(一部抜粋)
(2)会社以外の者は、何人も、他人の信書の送達を業としてはならない。
(3)運送営業者、その代表者又はその代理人その他の従業者は、その運送方法により他人のために信書の送達をしてはならない。ただし、貨物に添付する無封の添え状又は送り状は、この限りでない。
会社とは郵便事業をする会社を言います。したがって、現在のところ一般信書便事業を行っている日本郵政のみとなります。
さらにこれには罰則が規程されています。
郵便法第七十六条(事業の独占を乱す罪)
第四条の規定に違反した者は、これを三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。
あくまで貨物に添付する場合には、この限りではないとありますので、通販の納品書や仕送りの手紙などは大丈夫なので安心してください。
参考:「信書の送達についてのお願い」
違反事例
しかし、これを知らずにここ数年で何件か違反事例が発生しています。
「佐川急便を書類送検、大阪府警 許可なく「信書」配達容疑」
この事例では、受け取った男性が、送ったシマンテックと配達した佐川急便を相手に刑事告発したものです。
「埼玉県とヤマト運輸を書類送検 県警、郵便法違反容疑」
こちらも、受け取った男性が、送った埼玉県と配達したヤマト運輸を相手に刑事告発しました。
まとめ
以上からわかるように、手紙やはがきの配達事業は実質的に日本郵政の独占業務となっており、また罰則まで存在しています。
さて、前回の審査請求事例を取り上げたときに、もう一つ重大な問題が隠されていると書いたのを覚えていますか?
そう。
信書(申告書)を宅配(ゆうメール)で税務署に送付しているのです。
これは受け取った税務署が、この納税者と日本郵政を告発することもできる事案なんですよね。
いちいち税務署がそんな事はしないでしょうが、申告書を送付するとき必ず郵送でするようにしましょう。