税務雑誌を読んでいたら興味深い裁判例が掲載されていました。
個人事業主が自分で設立した会社に、外注として業務委託費を支払っていた場合、これが認められるかどうかという事例です。
こんなこと節税のために誰でもやってるんじゃないの?と思いますが、実は経費として認められないことがあるのです。
どのような場合に否認されてしまうのか、裁判例を見てみましょう。
個人事業主と自身が設立した会社の裁判例
事案の概要と争点
大阪地裁平成30年4月19日判決
納税者は、個人事業主として燃料小売業を営む一方、施工工事を目的とする同族会社(以下「本件会社」)の主要株主であり、同社の代表取締役を務めていました。
納税者は自己の業務であるガスの配達、販売、保守を本件会社に委託し、本件会社に外注費を支払いました。
課税庁は、本件外注費を必要経費に算入することは、個人事業主の報酬を必要経費として認めることと等しい効果があるため所得税の負担を不当に減少させる結果となるとして所得税法157条1項の規定を適用し、更正処分を行いました。
この事案の争点は、
①本件外注費は必要経費に該当するか
②代表取締役を務める同族会社との取引が「同族会社の行為計算の否認」の対象となるか
が挙げられます。
・納税者の主張
①の主張
本件外注費は、個人事業の活動と直接関連している
事業遂行上、必要な支出である
この2つを軸とした主張を展開しています。
そして、例え租税回避のおそれがある行為でも私法上有効に成立した法律行為であるから問題ないとしています。
②の主張
①を踏まえた上で、第三者である法人に対して適切な金額を支払って業務委託をしているため、同族会社に限定される行為ではない。
したがって、同族会社の行為計算の否認規定の対象にもならない。
・課税庁の主張
課税庁は、この納税者の主張に対して以下のように反論しています。
①の主張
本件会社に委託した業務は、納税者本人のみが行っていた業務であり、本件会社は事業目的に配達業務を記載していない。
委託された配達業務にかかる車両や費用は、個人事業主である納税者が負担している。
以上の点から、業務委託費は必要経費として認めないと主張しました。
②の主張
本件の配達業務は個人事業主として納税者が行っているものであり、それを本件会社に外注し納税者自身が従事することは不必要である。
経済的、実質的見地から判断すると、不合理かつ不自然であるため経済的合理性があるとは認められない。
そのうえで、本件取引は「本件会社が納税者の同族会社でなければなし得ない取引」であるとして、同族会社の行為計算の否認の規定を適用する。
・判決
判決では、「(納税者は)事故の保有する設備、車両等や資格を用いて、日常的に、自己の経験と判断に基づき、自己の労力及び経費負担をもって遂行していた」と認定しています。
その上で次のように判断しました。
「実質は、納税者が自ら事業主としてその業務を遂行する一方で、本件取決めに基づく取扱いを継続することにより、本来支払う必要のない事業主自身の労働の対価(報酬)を、『外注配達費』や『人夫派遣費』という名目で本件外注費として本件会社に支払っていたものといわざるを得ない。」
すなわち、争点①については、社会通念上、納税者の業務の遂行上必要であるとはいえないことから、納税者の事業所得に係る必要経費には該当しないと判断しています。
この結果、争点②については、適用対象になるかどうかの判断の必要はないと斥けられました。
外注費が必要経費になる条件は?
判決の意味
必要経費の該当しないと判断したことで、同族会社の行為計算の否認規定を適用対象の有無を判断する必要ないとした点が気になります。
課税庁はあくまで「同族会社でなければなし得ない取引」であるから、必要経費ではないと否認しました。
しかし、判決ではそれ以前に、本来支払う必要のない外注費は必要経費に該当しないと判断しました。
これは、同族会社に限らず、必要経費の要件に該当しなければ認めない事例として考えられるでしょう。
私見としては、同族会社だからこそ成立した取引であるとも考えられますが、取引自体が実質的に必要経費に該当するかどうかを優先的に判断すべきとしています。
それでは、これを実務に生かすにはどうしたら良いでしょうか。
個人事業主が取るべき対応
このスキーム(と呼べるほどのものではないですが)は、多くの個人事業主が行っていると考えられます。
自己の業務の一部を自身が設立した会社に委託し、個人事業主は外注費を経費にあげ、会社は役員報酬を支払うことで節税する方法です。
多くの事業者が認められているのに、何故今回裁判となったのでしょうか。
まず、少なくとも誰もが気が付く点が一つありますね。
会社の事業目的に業務内容がない
これは、あまりにもお粗末でしょう。
これと併せて、委託された業務を遂行したのは納税者のみというのも問題かもしれません。
例えば、この同族会社に他に従業員がいる場合には、自身の業務の代わりに委託する意味がありますよね。
さらに、従業員にも給与を支払っていれば、外注費として計上した金額が全て役員報酬として給与所得控除を受けるわけではありません。
最低でもここまではしないと経済的不合理と判断されても仕方ないでしょう。
何故、外注に計上するかと言ったら、本人の代わりに業務を遂行する必要があり、今回の判決では例え法人格のある第三者に委託したとしても実質的な見地から否認の判断をしたと思われます。
ただ、それならば同族会社の行為計算の否認の規定を適用したから必要経費と認められなかったと考える方が妥当だと思うのですが・・・。
いずれにせよ、この方法を使って外注費を計上したとしても実質的に判断されて否認される可能性があることは頭に入れておくべきでしょう。