開業税理士をしていると法人、個人、相続と様々な案件に遭遇します。
安定した顧問先ばかりだと基本的にルーチンワークが多くなるのですが、譲渡や相続の場合はそうはいきません。かなり難解な案件に当たる事もあります。
そんな時にどうすれば良いのか、どうしているのか。
実際の税理士の解決法を紹介したいと思います。
税理士は何でも知っているわけではない!
一口に税務といっても、メインの税法だけでも法人税、所得税、相続税、消費税があり、この一つ一つのボリュームがとんでもない量です。
そこで近年は、特化型の事務所、特に相続専門の税理士事務所が増えています。
相続税の顧問料の高さと相続税のみに絞れば良いという点では、大変合理的な戦略です。
特化型は、やればやるだけ実績が積み上がるわけだし、専門と謳うことで他の税理士より信頼できそうというイメージも作りやすくなります。
簡単な案件に関しては、特化型の税理士に頼むと相当割高になる事も多いのですが…それは本記事の後半に。
このように特化型の税理士事務所や大手には専門部署が存在するように、一人の税理士が全ての税法をマスターしている事は、ほぼ無いでしょう。
しかし、どうしても「勉強したことがない」「経験したことがない」案件に当たることもあります。
そんな時に考えられるのが、これから紹介する方法です。
基本は自分で解決!
当たり前のことですが、基本的には自分で解決すべきです。
そのために税理士は36時間の研修を義務付けられていますし、東京税理士協同組合では書籍の10%オフや優待割引券が貰えます。
ところが、税理士にはどうしても得意不得意な税法があります。それは税法の範囲の広さと試験制度が関係しています。
税理士試験は、会計2科目と税法3科目の合格が条件となっています。
その中で税法は、所得税法、法人税法、相続税法、消費税法又は酒税法、国税徴収法、住民税又は事業税、固定資産税のうち受験生の選択する3科目(所得税法又は法人税法のいずれか1科目は必ず選択しなければなりません。)を選ぶことができます。
また、大学院で会計科目または税法科目に関する修士論文を書き、国税審議会の認定を受けると、認定を受けた科目につき1科目のみ合格すれば良いことになります。
税法の場合、2科目が免除になるため残りの税法1科目については、上記7科目どの税法でも良く、人によっては所得税法も法人税法も消費税法も相続税法も勉強せずに税理士になることができてしまいます。
もちろん、税法を全く知らずに税法に関する論文は書けないので、流石に知識がほとんどない税理士はいないでしょうが、どうしても知識に偏りができてしまいます。
筆記試験で税法3科目合格したとしても、主要な所得税法、法人税法、相続税法、消費税法のうち、一つは勉強せずに税理士となります。
大学院では多くの実務家や裁判例に触れて、法律の解釈論を徹底的に学びます。
一方で、筆記試験では専門学校で試験対策として網羅的にその科目を学ぶことができます。
したがって、筆記試験と大学院に通うのと一概にどちらが良いとも言えないのです。
私の場合は、法人税と消費税を勉強しつつ、大学院で法人税がメインの修士論文を書き、税法2科目免除を受けました。
そして、消費税法合格後すぐに専門学校の相続税法と所得税法を受講して、網羅的なテキストにより知識の補完をするようにしました。
税法は年々改正が行われるため、筆記試験組であろうが数年に一度は専門学校のテキストで学ぶのが理想的だと思っています。
しかし、網羅的に勉強して研修を受けていても、実務と試験勉強は違うため、特に相続などの案件を前にすると悩んでしまう事もあります。
そこで試すのが次の方法となります。
意外な相談相手【国税局電話相談センター】
国税庁のホームページには、法令解釈通達や質疑応答事例など比較的専門的な知識を要するものから、タックスアンサー(よくある税の質問)や国税局電話相談センターなど一般的な納税者向けのコーナーもあります。
この国税局電話相談センターの説明を見ると下記のように記載されているのです。
国税に関する一般的なご相談(制度や法令等の解釈・適用についてのご相談や手続案内など)については、各国税局に設置する「国税局電話相談センター」において、国税局の職員がお答えしています。
一般的な相談と言いつつ「制度や法令等の解釈・適用について」とあります。そのため、この相談センターに電話すると結構専門的な内容も答えて貰えるのです。
特に名前を名乗る必要もないので、自分が税理士という必要もありません。
ひとまず自分の解釈に少しでも不安があるときは、確認として電話してみる使い方も有効だと思います。
さらに難解な案件の場合にはどうしたら良いでしょうか。
意外な相談相手【税務署】
とある難解な案件に当たった時に、ダメ元で税務署に電話で問い合わせをしたことがあります。
当初はやはり「納税者本人以外の相談は受け付けていません。税理士の先生の解釈にお任せします。」と断られてしまいました。
しかし、案件を話すと「あまり聞かない事案ですね、確認します」と検討してもらえる事に。
簡単に説明すると、条文内に括弧書きがあり、その括弧書きに今回の事例が当てはまるかどうかというものでした。
当てはまれば原則以外の方法が使えるのです。
調べた限り、今回の場合は原則以外の方法が使えるらしいのですが、括弧書きがいわゆる事例列挙で確証が持てませんでした。そこで所轄の税務署に問い合わせをしたのです。
この時は内容が内容だったせいか、税務署職員の方も丁寧に調べて対応してもらえました。
税務は法律といえども解釈の幅があり、金額の大きい案件は複数の角度から確認する必要があります。慎重を期すに越したことはありません。
なお、税務署に直接相談する方法もあります。
税務署に相談する(事前予約のご案内)
具体的に書類や事実関係を確認する必要がある場合など、電話での回答が困難な相談内容については、所轄の税務署(注1)において面接にて相談をお受けしています。
この場合は、納税者本人が予約する必要があります。
申告期限まで時間があり、顧問先に複雑な事案だから同席して欲しい旨の確認が取れれば、この方法もありかもしれません。
どうしようもなければ他人に任せる
これは最終手段になります。
本当に自分の専門外で、自分で扱うにはあまりにリスクが高い場合などは、その分野を専門としている税理士に任せる方法もあります。
専門の税理士といっても基本的な「相続専門」「税務調査専門」などといったものではなく、「上場準備」「連結や合併」「医療法人」などある程度特殊で規模のある事案です。
これは顧客側からの視点になるのですが、単純な相続や税務調査に関して「自分の税理士じゃなくて他に相談しよう」とするのは絶対に損です。
私も独立したての頃に、相続と調査に関して顧問先の独断で他の税理士に依頼されたことがあります。
相続の時は、法人の顧問先から「先生は相続やってないと思って近くの他の人に頼んじゃった」と後日知らされました。
後で別の税理士がした相続税の申告書を確認すると、顧問先とコミュニケーションが取れておらず、財産の把握に不備があり修正申告をしていました。
また、顧問先に調査があった時に「先生まだ若いから、調査専門の税理士っていうのに依頼しようかとも考えているんだけど…」と言われてしまったこともあります。
この時は、きちんと調査で指摘されるであろう問題点と対策を話して信頼してもらい、想定外のことは何もなく調査を切り抜けました。
このように、お互いコミュニケーションを取ることで無駄な報酬を払わずに済みますし、税理士側も損害賠償のリスクがあるので手に負えない案件は無理に受けないと思います。
おわりに
税理士が難解な案件に当たった場合の内輪話と、顧客目線の注意点などに触れてみました。
相談なんかしないよ!全部自分で解決するのが税理士だ!というご立派な方もいるでしょう。おそらく能力も高くて素晴らしい先生だと思います。
ただ、私のスタンスとしては、税理士は顧問先の税務を請け負うと同時に相談相手でもあります。
したがって、税理士として顧客の無理な注文は受けないようにし、顧客に対しても最適な提案をできるようにしたいものです。